キスしてるみたいに手紙を書こう

日々の感謝とありったけの愛を

まだ夢の途中

 

9月26日

 

朝、新橋演舞場に向かう途中

駅の階段をゆっくりゆっくり降りながら

私はイアーゴーみたいに駆け登ったり駆け下りたり出来ないな…なんて思って。

始まった頃はまだ夏のような天気だったのに

その日はまるで秋が通り過ぎたように寒くて

終わるまで雨が降らないといいな、なんて思ったものです。

 

本来、この作品は今井翼くんが出演するはずでした。

レコメンの中にある翼くんのラジオを聴きながら、翼くんずっと舞台の仕事が続いているんだななんて思っていた最中、4月に『マリウス』の休演が決まり、代役を務めたのが照史くんでした。

そして、5月3日のお昼。

突然来たメールには神山くんが翼くんの代役として『オセロー』に出演することが書かれていました。

 

私は、神山くんのことを応援しようと思ったタイミングがいつだったのかをあまりはっきり覚えていません。

でも、神山くんで観たい姿は明確にあった。

その1つが劇団☆新感線の舞台に立つ神山くんを観ること。もう1つがシェイクスピア作品の舞台に立つ神山くんを観ることでした。

新感線出演が叶ったのが2016年の『Vamp! Bamboo! Burn!』で、その次に出演する舞台がシェイクスピア作品になるなんて。

すごくすごく嬉しかった。神山くんが舞台に出てくれることも嬉しかったけど、シェイクスピア作品に出てくれるっていうが本当に嬉しかった。

 

でも、本来それを演じるのは翼くんだったわけで、神山くんが出るということは翼くんが出ないということになるわけで。

正直、どう喜んでいいのかわからなかった。そもそも喜んでいいものなのかがわからなかった。どんな形であれ出演すると決まった以上、私は応援するのみだし、応援するってことは観に行くってことになるけれど。どこか引っかかりがあって。本当は決まった時に書き出したブログも結局書ききれずに削除していました。

 

そういえば、出演することが決まった直後のなにわぶ誌をドキドキしながら開いたら、まさかの気まぐレストラン開店しててズッコケたりしたな〜〜笑

気まぐれにもほどがあるわ、とか思ったな〜〜笑(ごめん)

 

6月15日に制作発表が行われて、その記事が出た時に見出しになっていたのが生田斗真から太鼓判』だったんですよね。

もうね…本当に嬉しかったし、その文字を見ただけで涙が出た。VBBの時ずっと神山くんのことを引っ張ってくれて、それ以来「憧れの先輩」で必ず名前に出てくる斗真くんが、そんな風に思ってくれていることを知っただけですごくすごく安心した。

 

そして、もう1つ嬉しかったことは

神山くんから「挑戦してみたいお芝居でもあった」って聞けたこと。これを見たときに初めて心の底から嬉しいなって思った気がします。

今回の『オセロー』を演出した井上尊晶先生は長年、蜷川幸雄さんの助手を務めその意思を継いでこられた人でした。

日本の演劇の中で蜷川幸雄さん×シェイクスピアという2つのワードはかなり大きな存在なのではないかと思っています。

演劇にそこまで興味のない人でもこのワードは聞いたことあるって人が絶対にいるだろうし、エンタメニュースでとかゲネプロの映像が流れて「この人も蜷川さんの舞台に出るんだ」と、思ったことがある人もきっといる。ジャニーズの中にも蜷川さんの舞台に呼ばれた方が何人かいます。

神山くんもきっとその程度だったのではないかと思います。

でもその程度だったとしても別に良かった。なんとなく頭にあって、いつかやりたいと思ってくれていただけで十分嬉しかった。

自分が観たいと思っていることと、本人がやりたいと思っていることが一致するってね、すごくすごく幸せなんです。本当に嬉しかった。もうこうなったら全力で楽しもうと心に決めたのがこの日。

そして、その後に出たサタジャニでブラブラの演出家の先生に「お芝居をやめないで、頑張っていればハムレットができるから」と言われていたことを教えてくれた。神山くんの中にシェイクスピアという存在がなんとなく頭にあったのは、グレン先生からのこの言葉があったからなのかもしれないと思いました。

 

神山くんが1番に大切にしてることは「楽しむこと」なのではないかな?と思っています。

それこそ1万字インタビューでもそれは感じていたし、お仕事に伴って載った雑誌でもそういう発言をすることが多かった。

だから私の中で神山くんが後ろ向きな発言をする印象がほとんどありませんでした。

でも、今回は明らかに状況が違った。

神山くんが演じるイアーゴーはシェイクスピア作品の中でハムレットの次に台詞の多い役。

そして、25歳にしてイアーゴーを演じるというとは今まで演じてきた方の中でもかなり若い。

「ノイローゼになりそう」「吐きそうになる」「台本を開くのが怖い」

普段家では台本読まないと言っていた神山くんが家でもブツブツと台詞を唱えていること。

謎の頭痛が続いていたこと。

基本的に自分の感情を出さずに淡々としている神山くんが発狂していると重岡くんに言われたこと。

ポロポロと言葉の端々に出てくる本音には、不安やプレッシャーに押し潰されそうな神山くんがはっきりと見えた。

でも、それを知っても私にはどうすることもできなくて悔しいなと思ったりもして。

 

ただ、私は神山くんの演技そのものには何も心配していなくて。神山くんなら大丈夫、だから信じて待つだけだって思ってました。

それは今まで神山くんがずっとずっと私たちを楽しませてくれたから、いつだって神山くんは最高のエンターテイナーだったから。

弱音はこぼしていたけれど、最後には絶対に「乗り越えてみせる」って言ってくれた。まるでその言葉を言うことによって自分自身を鼓舞しているようだった。

私が1番嫌なことは神山くんが悔しそうにすることだ。首を傾げたり、顔をしかめたりする姿だけは見たくなかったから、とにかく神山くん自身が納得できる初日を迎えられますようにってそれだけを願っていました。

 

そして迎えた初日。

固唾を呑んで見守るとはこういうことだ、と肌で感じるくらい会場全体が色々な緊張に包まれていました。

上演に伴って発売された『新訳オセロー』は、まるで台本なような形をしているものでした。神山くんが言っているように、本当にイアーゴーはひたすら台詞を言っていた。わかっていたけど、読んでみると改めてすごい量だった。

それを目の前で言っているのは神山くんなのに、舞台が始まってから1回目のカーテンコールが終わるまでそこに神山くんはいなかった。

いたのは、間違いなくイアーゴーでした。

2回目のカーテンコール、神山くんは「終わった…」とつぶやき、その言葉とともに神山くんの中からイアーゴーがいなくなった様に眉間のシワほどいた。その瞬間、私の緊張の糸も解けてしまった。プツンと音がするように、涙が出てきて止まらなくなった。きっと神山くんは初日を終えるまで強い言葉で自分自身を支えて、弱い自分をなるべく見ないようにしていたのではないかと思う。そんな神山くんが安堵の表情を見せてくれて良かった。不安だったよね、緊張したよね、それを私たちにも見せてくれたのが嬉しかった。一緒に乗り越えたような、そんな気分になりました。

その後の会見で芝翫さんがこんなことを仰っていた。

舞台中、客席と同じ気持ちを共有できたと感じました。神山くんの年齢でイアーゴーを演じた人は、かつて居ないんではないかと思うんです。だから稽古場で暗くなっちゃったときもあったし、皆で「大変だ、大変だ」って言ってたんです。僕らカンパニーも、神山くんがここまで頑張ってきたと知っているし、お客さまも皆さん察したのか緊張なさっていて。とても若い方もいらしてくださって、キャストの皆さんそれぞれのファンの方がいらっしゃいましたが今日は一丸となって舞台をつくりあげたなという感覚がありましたね。

頷くしかなかった。本当にその通りだった。

幕が降りてから全体力を使い果たした私は、ぼーっとしたまま歩き続けて、気が付くと乗るはずだった駅を通り過ぎ全然違う電車に乗って家まで帰りました。

でも幸せな、暖かな、あの日の劇場の空気と景色を私は絶対に忘れないだろうなと思います。

 

初日を超えたら、大丈夫だろうと思っていました。その言葉通り神山くんは、どんどん進化していきました。声の出し方も表情の作り方も。毎日毎日ある公演の中で、観るたびに色々な発見があり、その度に考えさせられた。

私は初日のあと「どんなに観劇してもイアーゴーに同情できないかもしれない」と思っていました。でも気が付いたら、どんどんイアーゴーに夢中になっている自分がいて。神山くんが初日の会見で言っていた「人間味も出せて感情移入できるイアーゴー」にまんまと入り込んでしまっていました。

ということで、物語を通しての私の考察は改めて書きたいと思います。笑

結局最後までイアーゴーのことを嫌いになれなかったな。

 

私は、イアーゴーをできるだけ多くの人に観て欲しいと思っていました。だから、迷っている人には全力で勧めたし、誘って一緒に行った友人もいます。そのみんなが「神山くん、本当にすごいね」って言ってくれて、なんだか誇らしい気持ちでした。「だよね、わかる。本当に神山くんってすごいよね」って。

それだけじゃなく、劇場の中で聞こえてくる他のキャストさん目当ての方の会話とか、SNSで見かける感想とか、色々なところで色々な人が神山くんのイアーゴーに対して感想を述べてくれていたのが嬉しかった。

 

千穐楽の幕が上がった。

本当に当たり前のことを言うけれど

はじまったら、おわるだけ。

35分・60分 ・85分という上演時間があっという間に過ぎていきました。

そして幕が降りたとき、ふと気が付いたことがあった。

神山くんが1度も噛まずにイアーゴーを演じた姿を見たのが初めてだったこと。

それは私が観た中での話かもしれない。毎公演それを調べていたわけではないから真実はわからない。でも、千穐楽にそんな姿を魅せてくれるなんてドラマチックにも程があるし、心底惚れ直してしまいました。

神山くんは完璧を求めるイメージがあります。失敗をあからさまに悔しがる人。だから、あの膨大な台詞量だとわかっていても、噛んでしまったとき少なからず思うことがあったのではないかなと思います。だからこそ、最後の最後に完璧にしてくる神山くんはどこか"らしさ"も感じられたような気がします。

 

カーテンコール、いつものように両膝に手を置き一礼した神山くんはその手にぐっと力を入れた勢いのまま頭をあげました。

そして3回目のカーテンコールで両手を思いっきり上にあげてガッツポーズをしました。

芝翫さんと熱い抱擁を交わしたとき、少しだけ泣きそうな顔をしていたけれど、それ以降神山くんはずっと達成感に満ち溢れた清々しい表情をしていたように見えました。

初日の時に見せたほんとちょっとの弱い部分はどこにもなくて。神山くんはこの公演期間で本当に強くなったんだなと思った。

 

数回繰り返されたカーテンコール、神山くんの挨拶の冒頭に「ちょっとマイクをあげてもらっていいですか?声が可哀想なことになってるんで」と言った声は、本当に枯れていて。聞いたことのない声で。実は何日か前からそうなっていたのかもしれないし、毎回終わりにそうなってしまうのかもしれない。わからないけれど、そんなことを微塵も感じさせていなかったことに驚き、言葉を失いました。

でも確かに神山くんは全身全霊でイアーゴーを生きていた。心配になるくらい顔の輪郭がはっきりとうつる。悲しくなるくらい美しい横顔だった。衣装もサイズを間違えたのかと思うくらいブカブカになっていた。

本当に常にギリギリの状態だったんだろうと思う。

 

「最後なんで楽しく…」と前置きをした神山くんは、シェイクスピアを経験させてもらえたのも1つの縁だと話してくれました。そして

「これからも色々な作品を経験したいし、もっとでっかい人間になりたい。これができたんだからもっと上にいけるというハングリー精神を持って高みを目指していきます!」

と、真っ直ぐ前だけを見つめて言ってくれる神山くんは私の大好きな大好きな神山くんでした。

 

正直、まさかこんなに早く観たい姿が実現するなんて思っていなくて。夢が叶ってしまった嬉しさとほんの少しの虚無感がないわけでもないです。

多分、神山くんで観たいものなんてこれからいくらでも出てくるけど、今すぐに何と言われると思いつかないかもしれない。

でも、神山くんはいつだって私を楽しませてくれるし、その先を楽しみにさせてくれる人なんだなって。今回を通して感じることができた。私が後ろなんか向いちゃいけない。神山くんは前だけを見つめているんだって。わかってたけど改めて気付かされたような気がします。

 

神山智洋くん

25日間、38公演

本当に本当にお疲れ様でした。

よーし、さよならだ!